■ドクトルカメさん、深~く感謝!
 KSさんはほんとうに面倒見のいい人であった。
ドクトルカメさんは本来、決して他人に頼る性格ではないが異国での不安から、つい、KSさんの”いいですよ”の一言に甘えて何でも頼ってしまうのである。
 まず、日本からKSさん宛に自分の荷物を送らせてもらったが、それを保管してもらい、挙句の果てにはアパートまで届けてもらったこと、レーガン空港まで迎えにきてもらったこと、その足で日本食レストランに連れて行ってもらいご馳走になったこと、家へ何回も招待してもらって奥さんの手料理を食べさせてもらったことなど数限りない。
いまだに東には足を向けて寝られない。

■間に合うか!?
 ある日、ドクトルカメさんはニューオーリンズで開かれたレーザーの学会に出席するためレーガン空港までホンダアキュラインテグラを走らせた。

ある程度時間の余裕をみてブルックラインのアパートを出たつもりだった。
ところが途中、ルート93の高速道路にのったまではよかったが降りる場所を間違えてしまい、ダウンタウンの中をぐるぐる回った末にようやく海峡トンネルを抜けて空港にたどり着いたのであった。

 高速道路は6車線もあり、また、交通量が多く、車線変更がなかなか難しいため初心者にとってはやむを得ない面もあった。こんなことならタクシーで来るんであったと思っても後の祭であった。
とにかく時間がなかった。
 駐車場は5階建ての大きくて広いビルではあったが多くの車が駐車していてなかなか空いた場所が見つからない。時計とにらめっこしながら必死で空いたスペースを探した。
なんとか止める場所を見つけたドクトルカメさんは車のドアの鍵をかけるのももどかしく空港内に急いだのであった。20分前であった。
幸運なことにこの日はチェックインの列も少なくなんとか予約の飛行機に乗り込むことができた。

■恐怖
 スペイン語と英語が並記してあり、壁に一昔前の遊園地を描いたような安っぽい広告が目につくニューオーリンズの空港はそれでもまたエキゾチックでもあった。

それにしてもまだ寒さが身にしみるボストンから出てきたドクトルカメさんにはニューオーリンズは天国であった。木々の緑が実に目にしみた。
町を濶歩している観光客の半袖短パンの白さがまぶしかった。
たたんだ店もあったりして町の中はややさびれた感がしないでもなかったが、アメリカのニューオーリンズへおれは来たんだなーという実感はあった。

 学会は朝7時から始まるのには閉口したが、2日目の10時や11時になってもまだ列をつくってカップルでぺちゃくちゃしゃべりながらレジストレーションを待っている人がいるのには驚かされる。また、スタッフのほうもひとりひとりにのんびりと時間をかけながら受け付け作業をしているのにも驚かされる。気の短い日本人相手ではとても考えられないことだ。

 ケイジャン料理、ミシシッピ川遊覧、夜のあちこちの店で繰り広げられる本場のジャズ、危ないところへは行かないように気をつけながら十分ニューオーリンズをエンジョイした後、ドクトルカメさんは4日後の深夜、無事レーガン空港にたどり着いたのであった。

 ここで、さー車をと思った瞬間、急いでいたためどこに止めたのか位置を確かめておくのを忘れてしまっていたのに気がついた。さあ、大変である。何せ、広くて大きいビルである。愛車はどこにあるのかわからない。

空港とつながっている駐車場へ行く通路を歩きながらかろうじて記憶をさぐり、4日前にあわてて走った道を逆方向に思い出しながら階段の数も考え併せるとどうも3階だったと結論を出した。
ドクトルカメさんは車を探して駐車場のビルに入った。

 しかし、このビルがなんせ、でかいのである。どの位置に車を止めたのかとんと思い出せない。
車の行列の間を重い荷物を引きずり、汗をかきながら必死に探し回った。駐車場の中は暗い。

 確か、病院のエレベーター前のはり紙には夜、駐車場へ行くときは危険だから誰か、一緒に行ってくれる人を見つけて複数で行きなさいと書いてあったなーなどと思い出しながら、ここで強盗に襲われたらという恐怖感が頭の中をかすめていった。
焦りと恐怖心にさいなまれながらもしかし、どうやら探し出すことができた。
 ほぼ1時間かかっていた。よく見ると、壁際には大きな字でアルファベットと数字が書いてある。これを、メモしておけばこんな苦労をしないですんだのだった。

■そして幸運
 自分のばかさかげんに腹を立てながらも車が見つかったことに内心、ほっとした。気をゆるめすぎて腰のあたりから力が抜けそうだった。あたりを見回して誰もいないのを確認してからドアを開け、エンジンのキーを差し込みスターターを回した。

ところがエンジンがかからない。
落ち着くんだ。自分に言い聞かせた。

右手の親指と人さし指に祈るような気持ちをこめて今度こそと思ってキーをひねる。しかし、セルモーターのなまぬるい音が聞こえるばかりだった。何度やっても同じだった。セルモーターの力が弱っているんだ。考えられるのはヘッドライトをつけっぱなしにして車を離れたことだ。

そうだ思い出した。確か、トンネルを通った時につけたスモールランプを消し忘れて飛行機に飛び乗ってしまったのだ。それでバッテリー(ビルにこの話をしたがバッテリーという言葉がすぐに通じなかった。ボストン人の発音はバダリーと聞こえる)があがってしまったのだ。
何ということだ、こんなアメリカの飛行場の駐車場でそれも夜中に立ち往生するとは。困った。しばらく考えた。

そうだ、こんなときに最後に頼りになるのはKSさんだった。
車はこのまま放置しておいて明日の午後KSさんに頼んで取りに来よう。そう決心したら気が楽になった。車の場所をメモしておいて再び荷物を持って空港の方に戻り、タクシーを捕まえた。ブルックラインのアパートに戻ったのは11時を過ぎていた。

 さて、翌朝、KSさんに電話した。幸運なことに彼は自宅にいた。世界中を飛び回っている彼は月に2週間と自宅にいない。