■あいさつの仕方
 アメリカ人のあいさつは日本語でするよりは簡単なようにみえるのである。ドクトルカメさんが学校へいっていた頃に習った英語と違って、最近は、初めて会う人にはハウドユドーよりナイスツーミーツユーが一般的なようである。そのあと2回目に会ったときにはハワユーと聞かれることが多いのである。
目下、目上は関係ないから、朝はハウユー、グッドモーニング、ハーイでいける。日本語のように、社長には深々とお辞儀をして”おはようございます”、部下に向かっては、反り返って”やー、おはよう”などという使い分けはなさそうである。ましてや、”もうかりまっか”などという露骨なあいさつはない。

■便利…かもしれない?
 ドクトルカメさんが学校で習った頃のハワユーの答え方ファインであったが、その返事はどうもあきられたのか、ボストンではグードが一般的であった。さらに、一般庶民のおじさんあたりはハワヤー!とのたまり、その返事も、腹の奥からグッドと力強い。時々は、今日はちょっと眠いのでとか、今日はちょっと疲れたなーなどという返事を聞いてもよさそうなのだが、聞かないのである。いつも決まってグードなのである。

正直な話、いつもグードという返事しか返ってこないので、しつっこくハワユーなどと言わなければいいのにと思うのだが、これがいつもいつも聞かれるのである。まだ、英語に慣れないうちは、ハウドユドーの返事がハウドユドーなので、ハワユーと話しかけられると、ハウドユドーと混同して反射的にすぐハワユーと答えてしまう悪い癖がぬけない。
しかし、英語が苦手なものにには実際はこのほうが便利である。
少なくともドクトルカメさんにとっては便利であった。
グッドと答えておいて、アンド,ユー?とか、グッド,ハワユー?とまた聞いて、決まりきったグッドという答えを待たなければならないのは、せっかちで英語が苦手で、潜在的に会話を避けようとする深層心理がはたらく渡米まもないドクトルカメさんにとってはなんともわずらわしい。ハワユーといわれて、そのあと相手にもハワユーと聞き返さないのはたいへん失礼であると何かの本にも書いてあったので、いつも相手に聞き返すように努めてはいる。
しかし、これもまたタイミングが合わないと難しく、相手の言っていることを考えてから、おもむろにぼそぼそとアンドなどと返している時には、すでに相手はハワユー,ソー,ナイスなどといって、通り過ぎてしまっていることも、ままある。

 それにくらべると、ハーイ、はじつに便利である。
ハーイといわれたときは、ハーイとニコニコして通りすぎればいいので、せっかちなドクトルカメさん(われわれ日本人?)にはぴったりである。日本では、職場の廊下などで、顔だけは知っているが、かといって話しかけるほど親しくもない人に会うと、軽い会釈だけでなんとなく目を合わさないようにしてうつむき加減で通り過ごして、あとから何か言葉をかければよかったなーなどと落ち込みがちになるが、こんなときハーイとやればそんな思いをしなくてもすみそうだ。
そこでドクトルカメさんはこれは便利だと思い込み、もっぱら、相手に先んじてハーイというようにして、これを多様していたのである。
ところが、敵もさるもの、ハーイと答えておいて、さらに感情を込めてハーワーユーといってくださる御仁がいる。そこでやむをえず、立ち止まってあいさつをする羽目に陥るのである。こういう場合はさらに話が発展しそうになるので恐怖である。

 そして、これは特にアメリカの中年のおばさんに会ったときに多いのである。一般的にいって、働いているアメリカのおばさんは親切で、愛想がよく、仕事熱心で、ちょっとうろうろしていると、すぐキャナイヘルプユー?と声をかけてくれて、困っているときにはうれしくなってしまうのであるが、朝から何度もグードといっている時には、ハワユーはもういいかげん勘弁してほしいという気分になる。

■こんなときまで…
 ある日、ドクトルカメさんの妻が急に病気になり、日帰りの手術をするはめになった。最近のアメリカでは保険の関係もあり、全身麻酔でも短時間ですむ場合には日帰りの手術が行われるようである。

早朝、病院の待合室に行くと、すでに多くの患者さんとその付き添いの家族が待っていたが、ここでのあいさつも例にもれず、ハワユーであった。なんと、ナースがいまから手術を受けようとしている体調の悪そうな患者に、満面の笑みをたたえてハワユーとかん高い声で聞いているのである。
病気があるから病院に来ているのであって、グッドのはずがないではないか。しかし、患者は青白い顔をしてヘタヘタと笑いながら、力なく”グード”と答えるのであった。
 要するに、いつでもどこでも、アメリカはハワユーとグードでいいのである。