アメリカのガソリンスタンド

 
■アメリカのガソリン、ここが羨ましいのです

 アメリカではガソリンが実に安い。大体、1ガロンが1ドル前後で売られている。ガロンは約3.8リットルなので、1ドル85円として何と1リットル22円!!ドクトルカメさんがボストンに着いたころは1ドル127円ほどだったが、それでも1リットル33円である。インテグラのタンクが45リットルとしても満タン1500円である。

こんな値段だからアメリカ人はガソリンがぶ飲みの大型車に乗っていても維持費が気にならないはずである。おまけに高速道路はほとんど無料ときている。みんな車を使うはずである。

 ちょうどそのころ、アメリカではガソリンの税金を上げる話が出ていた。上げてもたかが5%か10%である。世界一の財政赤字国になっているのでそのくらい当然じゃないかと秘書のマーシーに言うと、彼女はアメリカでは日本のように公共交通機関が発達していないから少しの値上げでも痛いのよとおっしゃる。日本だって今やみんな車を使っているんだが。

■一度やってみたかった…!カメさん満足。

 ガソリンスタンドはセルフとフルサービスの二通りがある。まだアメリカ生活が慣れなかった最初の数回は店員に入れてもらうスタンドを選んでいたが、そのうち、日本にはないセルフのスタンドを経験してみたくなった。

 まず最初に両方のサービスが受けられるアパート近くのガソリンスタンドでおっかなびっくり試してみた。まず、当然ながら車の給油口を開いてキャップを外し(日本では店員がしてくれるので、自分でするのは正直言ってはじめててである)あいている給油機からノズルをはずそうとした。しかし、これがなかなかはずせない、押しても引いてもはずせない。

 だんだん額からは脂汗が出てきた。店の中をみるとなにか中でわめいている。当然のことながら、そんな英語、ドクトルカメさんには分からない。

 そうこうしているうち、店の中からオヤジが出てきて、まず、ガソリンの種類を選ぶボタンを押せという。なるほどレギュラー、ハイオク、有鉛と3種類がある。そして支払い方法を選べという。言われた通りすると、ようやくノズルを本体からはずすことができた。それを車の給油口にさしこみ、こわごわ引き金を引くとシャーという音がして勢いよくガソリンが入っていく。
一度、日本でもこれをしてみたかったんだ、と満足。

 給油機の注入量を示すメーターは小気味よく回転してガロンを表示する。そのうち、カチッと音がしてノズルの引き金に力が入らなくなった。やれやれなんとかセルフサービスの仕方をクリアできたぞという安心感が広がった。

ところがところがアメリカという国は単純ではないのである。1回成功してこれで全部いけると思うのが大間違い。やがてスタンドによってやり方がそれぞれまったく違うことを思い知らされるのである。

 あるところでは最初に金を払えという。そんなことをいったってどれだけ給油できるか分からないものにどうやって金を払えというんだ。
「オーケー、オーケー、じゃあ10ドル分だけ入れさせてくれ。」

最初にクレジットカードを出せというところ、給油機にクレジットカードを認識させればいいところ、店の中にまで行ってわざわざ給油機の番号をいわないとだめなところとそれは千差万別でそれぞれにあたらしい経験をさせられて困惑させられる。

■ガロンの落とし穴

 失敗もある。メーターの表示を決まりのいい数字にするために日本のガソリンスタンドがやるように満タンになってもすこしずつ入れていったところ、突然、ごぼごぼとガソリンが給油口からあふれだし、青くなってしまったことがある。

後から気が付いたのだがガロン表示だと決まりのいい数字にするためには結構、たくさん入れないとかたがつかないのだ。
 このときは手やズボンにもガソリンがついてあせってしまった。

これで思い出したのはある全身やけどの患者のことだった。
医者になったばかりのころ、大学病院へ重傷熱傷の患者が転送されてきた。 この人はでストーブに注油した時、灯油が服についたのを気に留めず車に乗り込み密閉した車内で暖気運転をしていたのだった。そして、さて一服やろうとタバコに火をつけたところ、服についた灯油が車内で気化してちょうどいい濃度になっていたため引火爆発し、全身やけどになってしまったのであった。
気管挿管してあるためしゃべれず、手足も真っ黒に炭火して動かせずで悲惨な結末となってしまった。悔やんでも悔やみきれないであろう。

 ドクトルカメさんはアメリカでふとこの患者のことを思い出し、しばらく日向ぼっこをしてガソリンの臭いがしなくなってから慎重に車に乗り込んだのであった。